大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)4348号 判決 1984年7月26日

原告

横手照夫

ほか三名

被告

日本海急送株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告横手照夫及び同横手常子それぞれに対し金八九二万五〇八六円及びうち金八二二万五〇八六円に対する昭和五七年九月二一日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告相澤武志及び同相澤竹子それぞれに対し金六九八万七〇六〇円及びうち金六四三万七〇六〇円に対する右同日から右支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告横手照夫及び同常子それぞれに対し金三四三七万〇八九〇円及び内金三一二四万六二六五円に対する昭和五七年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告相澤武志及び同竹子それぞれに対し金三一三一万九三一七円及び内金二八四七万二〇九九円に対する昭和五七年九月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え(なお、原告相澤両名の請求額については第二の一の4の(二)の(7)参照。)。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

(一) 原告横手照夫(以下「原告照夫」という。)及び同常子(以下「原告常子」という。)は亡横手克祐(以下「克祐」という。)の父母であり、原告相澤武志(以下「原告武志」という。)及び同竹子(以下「原告竹子」という。)は亡相澤幸江(以下「幸江」という。)の父母である。

(二) 克祐は、後記事故当時二一歳の男子で長野県北安曇郡白馬村北城三〇二〇所在の白馬エコーロツジに調理師として、幸江は、同事故当時二一歳の女子で長野県大町市大字平二〇一〇の一七所在のくろよん観光株式会社にロツジ従業員として、いずれも短期アルバイトとして勤務していた。

(三) 被告日本海急送株式会社(以下「被告会社」という。)は肩書地で一般区域貨物自動車運送事業を営み大型特別貨物自動車(石一一か二七一三号。以下「被告車」という。)を所有していた。

被告竹谷広之(以下「被告竹谷」という。)は被告会社の従業負であり被告車を業務上運転していた。

2  (事故の発生)

被告竹谷は昭和五七年九月二一日午後一一時ころ被告車を運転して長野県北安曇郡松川村六六六二番地先の国道一四七号線(以下「本件事故現場」という。)を南進中、同車を反対車線に進入させ折りから反対車線を北進してきた克祐が運転し幸江が同乗する普通乗用車(松本五六な五八九五号。以下「原告車」という。)の前部に被告車前部を衝突させ、よつて克祐に対し頭蓋骨骨折の、幸江に対し頭蓋底骨折兼頸椎骨折の各傷害を負わせていずれもそのころ死亡させた(以下「本件事故」という。)。

3  責任原因

(一) (被告竹谷の責任)

被告竹谷は、被告車を運転するにあたり前方を注視し通行区分を遵守して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、運転中居眠りをして前方を注視せず自車を反対車線に進入させた過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づく不法行為責任を負う。

(二) (被告会社の責任)

被告会社は、被告車を所有し自己の業務に供していたところ、被傭者である被告竹谷が被告会社の業務のため被告車を運転中に本件事故を惹起したものであるから、自動車損害賠償補償法(以下「自賠法」という。)三条本文に基づく運行供用者責任を負う。

4  損害

(一) (原告照夫、同常子の損害)

(1) 克祐の逸失利益 四七三五万三七八一円

克祐は本件事故当時二一歳であつたが、右事故による死亡の結果六七歳に至るまでの四六年間にわたり後記の通り一年間あたり少なくとも昭和五六年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計学歴計の全労働者平均年収に一年間四パーセントの上昇率を掛けて推計した昭和五七年の推定収入額三三五万三六一六円の得べかりし利益を喪失し、その生活費割合を四〇パーセントとし、同人の死亡による逸失利益を複式ホフマン式により年五分の割合による中間利息(その係数二三・五三三七)を控除して死亡時の時価を算定すべきであり、これによると、四七三五万三七八一円となる。

本件の被害者の死亡による逸失利益の算定について、収入額は賃金センサスによる全労働者平均賃金を、中間利息の控除は複式ホフマン式を採用すべき理由は次のとおりである。すなわち、克祐(後記幸江についても同様)は前記のとおり本件事故当時それぞれロツジ調理師(幸江は同従業員)であつたが短期アルバイトとして稼働していたものであり、将来はむしろ自営業ないしサラリーマン(幸江については家事労働)として仕事に従事することになる蓋然性が高いから、本件事故時の実収入ではなく賃金センサスに示される年収額を逸失利益の算定基礎とすべきである。また、賃金にはベースアツプと年功による上昇がみられるから、逸失利益も本来年齢に応じた賃金センサスの各年収額から逐一中間利息を控除して積算すべきものであるが計算の煩を避けるためこれに近似する値が得られる全労働者平均賃金(同一事故で男女が同時に死亡した事故については同一損害額を認定すべきであるから男女別平均賃金を採用すべきでない。)を算定基礎とすべきである。

さらに、逸失利益等の損害賠償金は利殖運用を前提として受領する性質のものではないから複利で運用することが期待できない上、近年顕著である貨幣価値の低落傾向等をも併せ考えると、中間利息の控除方法についてはライプニツツ式ではなく新ホフマン式を採用すべきである。

(2) 克祐の死亡による慰藉料 二〇〇〇万円

慰藉料算定にあたつては、被告竹谷の居眠り運転という重過失により本件事故が惹起されたものであること、その背景には被告会社の労務管理上の重大な手落ちがあること、右事情に加えて被告会社は運送業者であつて一般的に事故発生の頻度も高いから将来の事故発生を抑止するため制裁的要素を盛込むべきであること、克祐は幸江と共に本件事故当時いずれも二一歳の若者で結婚を約束しペンシヨン経営を計画していたものであるところ一瞬にしてその将来を奪われてしまつたこと、原告らはいずれも我が子を失い悲しみにくれていること、被告らはいずれも謝罪する態度をほとんどみせていないこと等の事情が十分考慮されるべきである。そうすると、克祐本人の死亡による精神的苦痛を慰藉するには二〇〇〇万円が相当である。

(3) 葬儀費用 原告照夫、同常子につき 各五〇六万九三七五円

原告照夫及び同常子は、左記(イ)ないし(ヌ)の克祐の葬儀費用合計額一〇一三万八七五一円の支払を二分の一ずつ負担し、本件事故により各五〇六万九三七五円の損害を受けた。

二次的に、被告会社は債務負担契約により右葬儀費用を負担する義務がある。すなわち、原告照夫及び同常子が、大町と大阪で葬儀をし費用は後で請求する旨申入れたのに対し被告会社はこれを応諾し同原告らとの間で支出した二回の葬儀費用全部につき債務負担する旨の合意をした。

(イ) 葬儀費用(長野県大町分) 一〇三万六九二九円

(ロ) 同(大阪分) 二一一万三五七二円

(ハ) 大町での百か日までの葬儀費用 一五〇万円

(ニ) 五七日満中陰費用 二二万二一〇〇円

(ホ) 同お寺お布施 三万円

(ヘ) 相澤家四九日満中陰お詣 九万一一五〇円

(ト) 百か日お布施 三万円

(チ) 墓地、墓石 二〇五万五〇〇〇円

(チ) 仏壇、仏具 二二〇万円

(ヌ) 地蔵尊設置代 八六万円

(4) 原告照夫、同常子固有の慰藉料 各二五〇万円

前記(一)(2)の諸事情を考慮すると、克祐の死亡による原告照夫及び同常子の精神的苦痛を慰藉するには各二五〇万円宛が相当である。

(5) 弁護士費用 原告照夫、同常子につき 各三一二万四六二五円

原告照夫及び同常子は、本訴提起を原告代理人に委任し、着手金、実費、報酬として請求額の約一〇パーセントを支払うことを約した。

(6) 損害の填補

原告照夫及び同常子は、本件事故による克祐の死亡に基づく損害に対する填補として自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から保険金二〇〇〇万円を受領したから、この二分の一にあたる一〇〇〇万円宛をそれぞれの損害金に充当する。

(7) 以上により原告照夫及び同常子の損害額は左記のとおり各三四三七万〇八九〇円宛となる。

(内訳)

<1> 克祐の損害額(前記(1)(2)) 六七三五万三七八一円

原告照夫、同常子の相続分(割合各二分の一) 三三六七万六八九〇円

<2> 右各原告固有の損害額(前記(3)ないし(5)) 一〇六九万四〇〇〇円

<3> 填補分(減額) 一〇〇〇万円

右合計額 三四三七万〇八九〇円

(二) (原告武志、同竹子の損害)

(1) 幸江の逸失利益 四七三五万三七八一円

幸江は本件事故当時二一歳であつたところ前記(一)(1)と同様の算定方式により本件事故による死亡に基づく逸失利益の損害は四七三五万三七八一円となる。

(2) 幸江の死亡による慰藉料 二〇〇〇万円

前記(一)(2)の諸事情を考慮すると、幸江本人の死亡による精神的苦痛を慰藉するには二〇〇〇万円が相当である。

(3) 葬儀費用 原告武志、同竹子につき 各二二九万五二〇九円

原告武志及び同竹子は、左記(イ)ないし(ニ)の幸江の葬儀費用合計額四五九万〇四一八円の支払を二分の一ずつ負担し、本件事故により各二二九万五二〇九円の損害を受けた。

(イ) 葬儀費用(仏壇仏具を含む。) 二〇五万三一四〇円

(ロ) 四九日、百か日費用 一五万四二七八円

(ハ) 墓石代 一五二万三〇〇〇円

(ニ) 地蔵尊設置代 八六万円

(4) 原告武志、同竹子固有の慰藉料 各二五〇万円

前記(一)(2)の諸事情を考慮すると、幸江の死亡による原告武志及び同竹子の精神的苦痛を慰藉するには各二五〇万円が相当である。

(5) 弁護士費用 原告武志、同竹子につき 各二八四万七二一八円

理由は前記(一)(5)の原告照夫、同常子と同様である。

(6) 損害の填補

原告武志及び同竹子は、本件事故による幸江の死亡に基づく損害に対する填補として自賠責保険から保険金二〇〇〇万円を受領したから、この二分の一にあたる一〇〇〇万円宛をそれぞれの損害金に充当する。

(7) 以上により原告武志及び同竹子の損害額は左記のとおり各三一三一万九三一七円宛となる。

(内訳)

<1> 幸江の損害額(前記(1)(2)) 六七三五万三七八一円

原告武志、同竹子の相続分(割合各二分の一) 三三六七万六八九〇円

<2> 右各原告固有の損害(前記(3)ないし(5)) 七六四万二四二七円

<3> 填補分(減額) 一〇〇〇万円

右合計額 三一三一万九三一七円

(なお、訴状には、右損害合計は三一三一万九四〇七円とあるが、これは訴状七枚目表一一行目に記載の弁済分差引後の亡相澤の相続分の額の明白な違算に基づく誤記と認める。)

5  よつて、本件損害賠償として、原告照夫及び同常子それぞれは被告ら各自に対し各三四三七万〇八九〇円及びうち弁護士費用を除く各三一二四万六二六五円に対する本件事故の日である昭和五七年九月二一日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告武志及び同竹子それぞれは被告ら各自に対し、各三一三一万九三一七円及びうち弁護士費用を除く各二八四七万二〇九九円に対する本件事故の日である右同日から右支払ずみまで前同年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1(当事者)のうち、(一)及び(三)記載の各事実を認め、同(二)記載の事実は知らない。

2  請求原因2(事故の発生)記載の事実は認める。

3  請求原因3(責任原因)の(一)のうち、「運転中居眠りをして」の事実を否認し、その余の事実は認め、同(二)記載の事実は認める。

4  請求原因4(損害)の(一)記載中、(6)の原告照夫及び同常子が本件事故による克祐の死亡に基づく損害に対する填補として自賠責保険から保険金二〇〇〇万円を受領した事実は認めるが、その余の部分はいずれも争う。同(二)の記載中、(6)の原告武志及び同竹子が本件事故による幸江の死亡に基づく損害に対する填補として自賠責保険から保険金二〇〇〇万円を受領した事実は認めるが、その余の部分はいずれも争う。

三  抗弁

被告らは、本件事故に基づく損害の填補として、請求原因3(一)の(6)及び同3(二)の(6)に記載したもののほか、原告照夫及び同常子に対し合計五一万六九五〇円、原告武志及び同竹子に対し合計二三万円をそれぞれ支払つた。

四  抗弁に対する答弁

抗弁事実は知らない。

第三証拠

本件訴訟記録中分書証目録及び証人等目録に記載したとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  当事者について

請求原因1(当事者)の(一)及び(三)記載の各事実はいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、同第一九号証、同第二二ないし第三四号証、原告横手照夫本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第二〇、第二一号証、同第三五号証、原告横手照夫、同横手常子各本人尋問の結果によると、克祐は昭和三六年一月五日生まれの男子で同五四年三月に大阪府立高校を卒業して調理師学校に入学し、同五五年三月に同校を卒業して調理師資格を取得し五月に洋菓子会社に入社したが一二月に退社し、その後本件事故に至るまで長野県白馬村及び大町市所在の旅館、ロツジ、観光ホテル等でシーズン毎のアルバイトとして勤務し将来ペンシヨン等の経営の夢を持つていたことが認められ、また、成立に争いのない甲第二号証、同第三七号証、同第三九号証、原告相澤武志及び同相澤竹子各本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第四〇号証並びに右各尋問の結果によると、幸江は昭和三六年六月二三日生まれの女子で同五一年三月に中学校卒業後一年間美容学校に通学し、その後約三年間美容室に勤務したが退職し、同五六年四月ころから観光会社でアルバイトとして働くようになり、本件事故当時は同五七年五月から一一月までの契約で同会社経営のロツジに臨時従業員として勤務し月収約八ないし九万円(手取り)を得ていたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  事故の発生について

請求原因2(事故の発生)記載の事実は当事者間に争いがなく、右事実に、成立に争いのない甲第三ないし第一一号証及び弁論の全趣旨を併せ考えると、以下の事実が認められる。

1  本件事故現場は、車道の幅員約八・八メートルで中央をセンターラインによつて区分され、北から南に向かつてゆるやかに左ヘカーブしている平坦なアスフアルト舗装されている道路上であつて、制限時速五〇キロメートル、はみ出し禁止、駐車禁止の交通規制があり、本件事故発生当時(昭和五七年九月二一日午後一一時ころ)天候は晴れていたが現場付近は暗く、道路は乾燥していた。

2  被告竹谷は、被告車を運転して被告会社従業員竹原正男が運転し先行する大型貨物自動車(以下「原告車」という。)に約五〇メートルの車間距離をおいて追従し、右道路を時速約六六キロメートルで南進していたが、夜間でもありほぼ直線の単調な道路を先行車に追従しながら運転していたこともあつて眠気を催し、自車が通行区分を守つて走行しているかどうか、また現場付近がゆるやかに左にカーブしていることなどに気付かないまま自車をセンターラインの右側にはみ出させ、対向車線上へ約六〇センチメートルはみ出した地点で原告車が対向北進し自車前方約三〇メートル付近に接近してきているのを発見し、慌わてて急ブレーキをかけたが回避する余裕もなく北行車線のほぼ中央付近で被告車を原告車に正面衝突させそのまま原告車を押し戻すようにして同道路上を南へ約五二・八メートル滑走して停止したが、右衝突の衝撃により原告車に乗つていた克祐及び幸江に対しそれぞれ頭蓋骨骨折及び頭蓋底骨折兼頸椎骨折の各傷害を負わせて右両名を即死させた。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  責任原因

1  被告竹谷の責任

請求原因3(責任原因)の(一)記載の事実は被告竹谷が居眠りをしていた事実を除き当事者間に争いがなく、右事実に前記二(事故の発生について)の本件事故の態様を併せ考えると、被告竹谷は、被告車を運転して本件事故現場付近の道路を進行するにあたり進路前方を注視して道路状況を確認し道路標示によつて定められた通行区分を遵守して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、眠気を催して進路前方の状況を確認せず自車を反対車線上にはみ出して進行させた過失により本件事故を惹起させたことが認められ、したがつて、被告竹谷は民法七〇九条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

2  被告会社の責任

請求原因3(責任原因)の(二)記載の事実は当事者間に争いがなく、右事実によると、被告会社は自賠法三条本文により本件事故によつて生じた損害(物損を除く。)を賠償する責任がある。

四  損害について

1  原告照夫、同常子の損害

(一)  克祐の逸失利益 二六一六万七一二一円

前記一の事実によると、克祐は本件事故当時二一歳の独身男性であつたから六七歳に至るまでの四六年間にわたり一年間につき少なくとも昭和五七年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計男子労働者学歴計二〇ないし二四歳の平均賃金二二二万三八〇〇円の得べかりし利益を本件事故による死亡により喪失し(なお、原告ら主張の一年間四パーセントの上昇率は、これを認めるに足りる証拠がない。)、その生活費割合は経験則上少なくとも五〇パーセントとし、年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息(その係数二三・五三三七)を控除して死亡時の時価を算出するのが相当であり、これによる同人の死亡による逸失利益は、二六一六万七一二一円となる(円未満四捨五入。以下同じ。)。

(算式)

二二二万三八〇〇円×(一-〇・五)×二三・五三三七=二六一六万七一二一円

なお、前記一(当事者について)で認定した事実によると、克祐(後記幸江についても同様)は本件事故当時長野県下の観光地で観光会社経営のホテルないしロツジでアルバイトないし季節的労働者として稼働していたものであつて、将来ともかかる稼働状況を続ける蓋然性は低いのでその実収入を逸失利益の算定基礎とすることは適当ではなく、同人の有する潜在的な稼働能力を評価する指標としては賃金センサスに示される収入額を用いるのが適当であるから、同人の将来の逸失利益の算定基礎としては賃金センサスに示される収入額を採用すべきである。そして、死亡当時安定した収入を得ていた被害者において生存していたならば将来昇給等による収入の増加を得たであろうことが証拠に基づいて相当の確実性をもつて推定できる場合には、右昇給等の回数、金額等を予測し得る範囲で見積り、これを基礎として逸失利益を算定することも許されるものと解される(最高裁判所昭和四三年八月二七日第三小法廷判決・民集二二巻八号一七〇四頁参照)けれども、前記のとおり克祐(幸江についても同様)はアルバイトないし季節的労働者であつて死亡当時安定した収入を得ていたものといえず(そのために実収入でなく賃金センサスに示される収入額を逸失利益の算定基礎とすべきであることは前示のとおり)、将来昇給等による収入の増加のあることを明らかにする証拠も存しないから、本件において逸失利益の算定にあたつて昇給を考慮することは相当でない。また、逸失利益の算定という事柄の性質上全労働者平均収入額ではなく男女別平均収入額をその算定の基礎とするのが相当である。この場合、同一年齢の男女については損害額に格差が生じるが、このことは賃金センサスの示す男女別平均収入額が現実の労働市場における男女の稼働能力の評価の格差を反映していることによるものであり、逸失利益算定の際にもかかる現実を等閑視することはできないから、前記のように同一年齢の男女の逸失利益に格差が生じることも止むを得ないところである。さらに、中間利息の控除方法については、逸失利益等の損害賠償金は利殖運用を前提として受領する性質のものではなく、現実にも一般に損害賠償金が複利をもつて利殖されるのが通常であるとは経験則上考えられない上、近年顕著である貨幣価値の低落傾向をも併せ考えれば、年別のホフマン式による中間利息控除の方法が相当である。

以上のことから、本件において死亡による逸失利益の算定にあたつては賃金センサスの該当年齢の男女別平均賃金をその基礎とし、中間利息控除については年別ホフマン式による方法を採用することとする。

(二)  葬儀費用 原告照夫、同常子につき 各四〇万円

原告横手照夫本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第三六号証及び弁論の全趣旨によると、原告照夫及び同常子は、請求原因4(一)(3)(葬儀費用)の(イ)ないし(ヌ)記載の費用を分担して負担したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、克祐の年齢、社会的地位、家族構成、葬儀が二度営まれたこと等諸般の事情を考慮すると、請求原因4(一)(3)の(イ)ないし(二)、(チ)及び(リ)に記載されたものを合算した費用のうち八〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認め、これを原告照夫及び同常子が各二分の一ずつ負担し各四〇万円の損害を受けたものと認めるのが相当である。なお、証人分校喜久男の証言及び原告横手照夫の本人尋問の結果によると、原告照夫は克祐の通夜又は長野県大町での葬儀の際、被告会社の事故処理担当の常務取締役である分校喜久男に対して、「自宅のある大阪府茨木市でも克祐の本葬を行うが、その費用も被告会社で負担して欲しい。」旨申入れ同人はこれを了承した事実が認められるが、分校の右言動は通夜又は葬儀という状況下で原告照夫の右のような申入れに対して主として道義的立場から対応したものとみられる上、具体的数額も提示されていなかつたから、右の段階において原告照夫と被告会社との間に同原告らが負担することとなる葬儀費用全額についての債務負担契約が成立していると認めることはできず、他にこのような契約が締結されたことを認めるべき証拠はない。

(三)  慰藉料 克祐本人につき 五〇〇万円

原告照夫、同常子につき 各二五〇万円

本件事故の態様、克祐の年齢、社会的地位、家族構成、事故後の経緯その他本件に現われたすべての事情を総合すると、克祐の死亡による精神的苦痛を慰藉するには、克祐本人に五〇〇万円、原告照夫及び同常子に各二五〇万円の慰藉料をそれぞれ認めるのが相当である。

(四)  相続

原告照夫及び同常子が克祐の父母であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証によると、同原告ら以外に克祐の相続人はいないことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、原告照夫及び同常子は、前記(一)及び(三)に記載された克祐本人の被つた損害合計額三一一六万七一二一円を法定相続分に従い各一五五八万三五六一円宛相続したことが認められる。

(五)  よつて、原告照夫及び同常子の請求しうべき各損害額は、右克祐の損害の相続分に葬儀費用及び右原告ら固有の慰藉料を加えた各一八四八万三五六一円宛となる。

2  原告武志、同竹子の損害

(一)  幸江の逸失利益 二二六〇万四一一九円

前記一の事実によると、幸江は本件事故当時二一歳の独身女性であつたから六七歳に至るまでの四六年間にわたり一年間につき少なくとも昭和五七年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計女子労働者学歴計二〇ないし二四歳の平均賃金一九二万一〇〇〇円の得べかりし利益を本件事故による死亡により喪失し(なお、原告ら主張の一年間四パーセントの上昇率は、これを認めるに足りる証拠がない。)、その生活費割合は経験則上少なくとも五〇パーセントとし、年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息(その係数二三・五三三七)を控除して死亡時の時価を算出するのが相当であり、これによる同人の死亡による逸失利益は、二二六〇万四一一九円となる。

(算式)

一九二万一〇〇〇円×(一-〇・五)×二三・五三三七=二二六〇万四一一九円

(二)  葬儀費用 原告武志、同竹子それぞれにつき 各二五万円

原告相澤武志本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第四一号証、同第四三号証及び弁論の全趣旨によると、原告武志及び同竹子は、請求原因4(一)(3)(葬儀費用)の(イ)ないし(二)記載の費用を分担して負担したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、幸江の年齢、社会的地位、家族構成等諸般の事情を考慮すると、請求原因4(一)(3)の(イ)ないし(ハ)に記載されたものを合算した費用のうち五〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認め、これを原告武志及び同竹子が各二分の一ずつ負担し各二五万円の損害を受けたものと認めるのが相当である。

(三)  慰藉料 幸江本人につき 五〇〇万円

原告武志、同竹子につき 各二五〇万円

本件事故の態様、幸江の年齢、社会的地位、家族構成、事故後の経緯その他本件に現われたすべての事情を総合すると、幸江の死亡による精神的苦痛を慰藉するには、幸江本人に五〇〇万円、原告武志及び同竹子に各二五〇万円の慰藉料をそれぞれ認めるのが相当である。

(四)  相続

原告武志及び同竹子が幸江の父母であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証によると、同原告ら以外に幸江の相続人はいないことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、原告武志及び同竹子は、前記(一)及び(三)に記載された幸江本人の被つた損害合計額二七六〇万四一一九円を法定相続分に従い各一三八〇万二〇六〇円宛相続したことが認められる。

(五)  よつて、原告武志及び同竹子の請求しうべき各損害額は、右幸江の損害の相続分に葬儀費用及び右原告ら固有の慰藉料を加えた各一六五五万二〇六〇円宛となる。

五  損害の填補について

1  原告照夫及び同常子が本件事故による克祐の死亡による損害の填補として、また原告武志及び同竹子が本件事故による幸江の死亡による損害の填補としてそれぞれ自賠責保険から保険金二〇〇〇万円を受領した各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  証人分校喜久男の証言によると、被告会社は、本件事故による損害の填補として、原告照夫及び同常子に合計五一万六九五〇円、原告武志及び同竹子に合計二三万円をそれぞれ支払つた事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  弁論の全趣旨によると、原告照夫及び同常子は同原告らに対する損害填補の合計二〇五一万六九五〇円の各二分の一にあたる一〇二五万八四七五円を、また原告武志及び同竹子は同原告らに対する損害填補の合計二〇二三万円の各二分の一にあたる一〇一一万五〇〇〇円をそれぞれ各自の損害額に充当したものと認めるのが相当である。

六  弁護士費用について

原告照夫、同常子及び同武志の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告らが弁護士に本訴の追行を委任したことが認められ、本件事案の難易、審理経過、認容額その他諸般の事情を斟酌すると、本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに請求しうべき額は、原告照夫及び同常子について各七〇万円、原告武志及び同竹子について各五五万円とするのが相当である。

以上によると、被告ら各自は本件損害賠償(遅延損害金を除く。)として、原告照夫及び同竹子それぞれに対し、前記四1の(五)の損害額一八四八万三五六一円から前記五の損害填補額一〇二五万八四七五円を控除して右認定の弁護士費用を加えた八九二万五〇八六円の、原告武志及び同竹子それぞれに対し、前記四2の(五)の損害額一六五五万二〇六〇円から前記五の損害填補額一〇一一万五〇〇〇円を控除して右認定の弁護士費用を加えた六九八万七〇六〇円の、各支払義務がある。

七  よつて、被告ら各自は、本件損害賠償として、原告照夫及び同常子それぞれに対し八九二万五〇八六円及びうち弁護士費用を除く八二二万五〇八六円に対する右損害発生の日である昭和五七年九月二一日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告武志及び同竹子それぞれに対し六九八万七〇六〇円及びうち弁護士費用を除く六四三万七〇六〇円に対する右同日から右支払ずみまで右同年五分の割合による遅延損害金の各支払義務があるから、原告らの本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余の部分はいずれも理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田秀文 加藤新太郎 五十嵐常之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例